ビルメンテナンス業界では、建設業界と同じように、
発注者 → 元請会社 → 1次下請 → 2次下請 → 実際の作業会社
という多重下請け構造になっていることがあります。
間に入る会社が増えれば、それぞれの会社に管理費や利益が必要になるため、一般的には実際に作業する会社へ支払われる金額は下がっていきます。
「それなら最初から作業会社へ直接発注した方が安いのでは?」
発注者の立場からすると、当然このような疑問が出てきます。
しかし、ビルメンテナンス業界の仕事を考えてみると、多重下請け構造がこれだけ長く存在しているのには、それなりの理由があります。
今回は、なぜビルメンテナンス業界が多重構造になりやすいのか、そして発注者にとってどのような発注方法が適しているのかを、実際に建物管理を行っている会社の立場から考えてみます。
全国の現場をすべて自社社員で対応することは難しい
ビルメンテナンス業は、非常に労働集約的な仕事です。
管理する建物が増えれば、それに合わせて現場で働く人も必要になります。
例えば管理物件が集中しているのであれば、自社社員を配置して複数物件を巡回することもできます。
しかし、全国に店舗や事業所を持つ企業から、
「北海道から沖縄まで全国の施設をまとめて管理してほしい」
という依頼を受けた場合はどうでしょうか。
案件を獲得するたびに、その地域で人を採用し、教育し、責任者を配置し、営業所を設置するのは簡単ではありません。
むしろ、
全国の契約や管理は大手ビルメンテナンス会社が担当し、実際の現場については各地域に強い会社へ依頼する
方が合理的なケースがあります。
特に一定の成長スピードを求められる大手企業にとって、全国すべての地域で人材を採用しながら拡大していくことは大きな負担になります。
そのため、地域の協力会社を活用することによって対応エリアを広げていく仕組みが必要になります。
一つの建物でも必要になる専門分野が多い
さらにビルメンテナンスの特徴として、非常に多くの専門分野が存在します。
例えば一つの建物を管理するだけでも、日常清掃、定期清掃、空調設備、電気設備、消防設備、給排水設備、貯水槽、害虫防除、植栽、警備、廃棄物処理、各種法定点検など、さまざまな業務が発生します。
これらすべてについて専門人材を自社採用し、さらに全国各地へ配置するには相当な規模が必要です。
また、一つの地域で電気・消防・給排水など各分野の専門社員を抱えるためには、それぞれの社員を維持できるだけの仕事量も必要になります。
そのため、
総合管理会社が全体を管理し、それぞれの専門分野を地域の専門会社へ依頼する
という構造が自然に生まれます。
専門的な業務を、その業務に強い会社へ任せること自体は決して悪いことではありません。
むしろ専門性や品質を考えれば、合理的な分業といえます。
「現場作業ができる会社」と「元請ができる会社」は違う
ビルメンテナンスでは、技術力が高ければ必ず元請になれるわけではありません。
特に大手企業や大型施設との直接取引では、現場作業以外にもさまざまな対応が求められます。
安全管理、作業計画、報告書、契約書類、請求管理、作業員名簿、資格証の提出、事故発生時の対応、施設独自のルールへの対応、お客様との日程調整などです。
企業によっては取引開始時の審査や保険加入、コンプライアンス、情報管理などについて一定の基準を設けていることもあります。
地域の小規模な専門会社や一人親方の中には、非常に高い技術を持っていても、こうした管理業務まで対応することが難しい会社もあります。
また、大手企業の協力会社として直接登録するために一定の企業規模や管理体制が必要となるケースもあります。
そこで、
大手元請会社 → 地域の管理会社 → 専門会社・作業会社
という構造が生まれることがあります。
24時間窓口など「現場以外の機能」も必要になる
多重下請け構造を考えるうえで、もう一つ重要なのが、元請会社が持っている管理機能です。
例えば全国に施設を持つ企業の場合、夜間や休日に設備トラブルが発生する可能性があります。
そのため、24時間365日の受付窓口を設けている元請会社もあります。
各地域の専門会社がそれぞれ24時間のコールセンターを設置することは現実的ではありません。
そこで、
夜間・休日の一次受付や全国的な窓口は元請会社が担当し、通常の日中対応や専門的な現場対応は地域の会社が担当する
という役割分担ができます。
また、お客様から現場作業とは直接関係しない問い合わせがあった場合や、契約全体について判断が必要な場合も、元請会社が窓口となります。
地域の専門会社は、自社の得意な現場対応に集中できます。
これは多重下請け構造が単なる「中間マージン」だけでは説明できない理由の一つです。
外注することで雇用リスクを抑えられる
元請会社にとって、外注にはもう一つ大きなメリットがあります。
それが固定費の問題です。
仮に100人を自社雇用していれば、契約が終了しても100人の雇用は残ります。
社会保険料を含む人件費の上昇、人材採用の難しさ、労務管理などを考えると、必要な人員をすべて正社員として抱えることには一定の経営リスクがあります。
特に公共施設など、3年や5年といった期間で入札が行われる物件では、契約期間終了後も次の案件を受注できるとは限りません。
特定の物件のために人材を大量採用してしまうと、失注したときに人員が余ってしまいます。
そのため、地域の協力会社を活用することで、契約量の変動に対応しやすくするという考え方があります。
下請会社にとってもメリットがある
多重下請け構造というと、元請会社だけにメリットがあるように見えるかもしれません。
しかし、地域の専門会社にもメリットがあります。
例えば小規模な設備会社が、自社だけで全国展開する大手企業へ営業し、契約を獲得するには大きな営業力が必要です。
一方、大手元請会社から継続的に仕事を受注できれば、大規模な営業部門を持たなくても一定の仕事量を確保できます。
また、顧客との契約、請求、問い合わせ、年間スケジュールなどを元請会社が管理してくれれば、専門会社は現場業務に集中できます。
つまり、
元請会社は営業・契約・全体管理を担当し、地域会社や専門会社は現場を担当する。
こうした役割分担には一定の合理性があります。
発注者にも「窓口を一本化できる」というメリットがある
ビルオーナーや企業の総務・施設管理担当者にとっても、総合管理会社を利用するメリットがあります。
例えば複数の建物について、清掃会社、空調会社、消防会社、電気会社、給排水会社、害虫防除会社などとすべて直接契約した場合、管理する業者数は非常に多くなります。
その都度、
「これはどこの会社へ連絡すればいいのか」
と判断しなければなりません。
見積依頼、日程調整、契約、請求、報告書確認、事故対応もそれぞれ必要です。
それを総合管理会社へまとめて依頼すれば、
「建物について何かあれば、まずこの会社へ連絡する」
という窓口の一本化ができます。
中間会社が担っている管理機能に価値があるのであれば、その会社が間に入ること自体が無駄とは限りません。
では、多重下請け構造の何が問題なのか?
問題になるのは、必要以上に階層が増えてしまった場合です。
例えば、
発注者 → A社 → B社 → C社 → D社 → 実際の作業会社
という構造になれば、それぞれの会社に管理費や利益が必要になります。
結果として、発注者が支払っている金額と、実際に現場を担当する会社が受け取る金額の差が大きくなる可能性があります。
現場価格が下がりすぎれば、人件費、教育費、機材費などへ十分な費用をかけられなくなります。
反対に、人件費が上昇している現在、現場会社の必要な金額を確保しながらすべての会社の利益を確保しようとすれば、発注者の支払額が大きくなります。
そして、もう一つ問題になるのが情報伝達です。
発注者から作業員までに4社、5社が入れば、
「お客様が何を求めているのか」
が現場まで正確に伝わりにくくなります。
反対に、現場で発見した不具合や改善提案がお客様まで届くのにも時間がかかります。
多重化の問題は、単純な価格だけではありません。
お客様と実際に現場を動かす会社との距離が遠くなることも大きな問題です。
だからといって「すべて直接発注」が正解でもない
では、ビルオーナーや企業がすべての専門会社へ直接発注すればよいのでしょうか。
これも必ずしも正解ではありません。
直接発注すれば中間コストを減らせる可能性がありますが、発注先が10社、20社となれば、その管理業務を発注者自身が行わなければなりません。
外注費が安くなったとしても、総務や施設管理担当者の業務負担が大幅に増えてしまえば、会社全体として本当に効率的なのかは別の問題です。
そのため重要なのは、
「下請けがあるか、ないか」ではなく、「間に入っている会社が何をしているのか」
だと考えています。
24時間窓口、全国管理、契約管理、品質管理、専門会社の選定、緊急時の調整などを行っているのであれば、その会社には役割があります。
一方で、実質的な機能をほとんど持たず、単純な再委託だけが何層も続いているのであれば、発注構造を見直す余地があります。
人手不足によって発注構造も変わり始めている
近年はビルメンテナンス業界でも深刻な人手不足が続いています。
人件費も上昇しており、以前と同じ金額で現場を維持することが難しくなっています。
その状態で中間会社が何社も入れば、現場会社へ必要な金額を支払いながら各社の利益を確保するため、最終的な発注価格を上げざるを得ません。
実際に弊社でも、以前は元請会社などを経由していたような業務について、ビルオーナー様や大手企業様から直接お問い合わせをいただくケースが増えています。
「実際に現場を動かせる会社と直接話をしたい」
というニーズは、今後さらに増えていく可能性があります。
弊社があえて対応エリアを絞っている理由
弊社では、ビルオーナー様や大手企業様との直接取引を行う一方で、対応エリアを無理に全国へ広げることはしていません。
湘南・西湘エリアを中心に管理物件を増やし、一定のエリア内でできる限り内製化を進めることを重視しています。
これには二つの理由があります。
一つは、管理物件を一定の地域に集中させることで、人員配置や移動を効率化し、日常的な管理から緊急時まで対応しやすい体制をつくるためです。
もう一つは、湘南エリアから離れた場所に本拠点を持つ元請会社にとって、「湘南エリアをまとめて任せられる会社」になるためです。
例えば東京に本社を持つ大手ビルメンテナンス会社が湘南エリアの物件を受注した場合、自社スタッフを東京から毎回派遣するより、地域で実際に人員を抱えている会社と連携した方が効率的な場合があります。
弊社が目指しているのは、単に全国へ営業エリアを広げることではありません。
一つの地域に管理物件と人材を集中させ、その地域で対応できる業務の幅を広げていくことです。
清掃、設備管理、各種点検など、自社で対応する方が合理的な業務についてはできる限り内製化する。
一方、高い専門性や資格・設備が必要な業務については、地域の専門会社と連携する。
このような体制を構築することで、直接ご契約いただくお客様に対しては「地域の総合管理会社」として、大手元請会社に対しては「湘南エリアを任せられる地域の協力会社」として、それぞれ価値を提供できると考えています。
多重下請け構造そのものが悪いわけではない
多重下請け構造という言葉には、どうしてもネガティブなイメージがあります。
しかし、
発注者 → 大手元請会社 → 地域管理会社 → 高度な専門業務のみ専門会社
という構造で、
大手元請会社が全国管理や24時間窓口を担当し、地域管理会社が日常対応や複数業務を担当し、さらに特殊な業務だけを専門会社が担当しているのであれば、それぞれの会社が役割を持っています。
一方で、
発注者 → A社 → B社 → C社 → D社 → 作業会社
と、実質的な機能がほとんど増えないまま再委託だけが続いているのであれば、価格や情報伝達の面で効率的とは言えない場合があります。
したがって、ビルメンテナンス会社を選ぶときに確認すべきなのは、単純な「元請・下請」という区分ではありません。
実際に誰が現場を担当しているのか。
どこまで自社で対応しているのか。
外注している場合は、なぜ外注しているのか。
そして、間に入っている会社がどのような価値を提供しているのか。
ここを見ることが重要だと考えています。
まとめ|発注者と現場の「適切な距離」が重要
ビルメンテナンス業界で多重下請け構造が生まれる背景には、全国対応、専門性、人材確保、雇用リスク、24時間窓口、契約管理、営業力、窓口一本化など、さまざまな理由があります。
そのため、多重下請け構造を単純になくせばよいわけではありません。
重要なのは、それぞれの会社がきちんと役割を持ち、その役割に見合った構造になっているかどうかです。
特に人手不足や人件費上昇が続く現在は、必要以上に階層を増やすのではなく、発注者と実際に現場を動かす会社との距離を適切に保つことが、コストと品質の両方を維持するうえで重要になっています。
弊社としても、湘南・西湘という地域に軸足を置きながら、できる限り自社で対応できる業務を増やし、必要な部分では地域の専門会社と連携することで、「直接発注にも対応でき、大手元請会社からも地域を任せてもらえる会社」を目指しています。
全国へ広く展開する会社と、地域に深く入り込む会社。
それぞれの強みを組み合わせることも、ビルメンテナンス業界における一つの合理的な形ではないでしょうか。
<お問い合わせ窓口>
株式会社日装 お問合せ窓口
E-Mail: info@nisso-kanagawa.com